もっと自由に可能性を追えばいい!今井奈妙さん:三重大学医学部看護学科教授

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■経歴 こちら
■主な著書 Sick Building Syndrome

国立大学法人三重大学医学部看護学科の教授。でも、自称「アンチ・看護」という今井先生。看護学生時代には、随分と授業や実習に反発していたのだとか?! 型破りの姿勢は今も変わらず、この日、取材に行くと、いきなり『医療倫理Ⅱ』という大学4年生の講義に「参加してくださいね」と取材クルーを巻き込み……。今井先生の倫理の授業は、「患者さんが『どうぞ食べて』と実習中にプリンをくださったら、みんなは遠慮なく食べる? それとも…どうする?」というような、ハッとするくらい身近なテーマから、医療現場で起こる倫理問題の原理にアプローチしていきます。過去には、遠山病院(津市)や三重大学病院でナースとして働いていた経歴を持つ今井先生ですが、話を伺うにつれ「白衣の天使」とはほど遠いイメージ……。「看護師が白衣の天使だなんて、そんなのは幻想。世の中の人には、もっとしっかりと看護職を理解してもらいたい」と先生は訴えます。世間の常識や定説に疑問を持つことの面白さや大切さを、この日の取材を通して、今井先生から少しだけ教えてもらいました。

 

「ナースちゃんには政治はわからないよね」

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今井先生は、三重大学医学部附属看護学校(現在の医学部看護学科)を卒業→ナースとして勤務→26歳で大学に入学(人文学部)→大学院へ進学(保健学・看護学)→研究職へ、というユニークな経歴の持ち主。

「ナースとして病院に勤務していたある日、検温に行った部屋で、患者さんが新聞を読んでおられて。「ねぇ、今の政権について、どう思う?」と質問されたんです。どう思うって、考えたこともない…そう思いながら即答できずにいたら、『あ、ナースちゃんには政治なんてわからないよね~。ゴメン、ごめん』って言われて。ナースは無知だと思われていることがショックでした。実際、無知もいいところだったんですけどね」。

そんな出来事に後押しされたこともあり、突然、ナースを辞めて、三重大学人文学部社会学科に入学したといいます。当時の大学での思い出を振り返ってもらうと…。

「一般教養で古事記や万葉集を読んだり。経済学、政治学、法律学などを学んでいくうちに、学ぶ楽しさはもちろん学問とは何かを教えてもらったと思います。同時に、看護学校で学んだつもりになっていた看護については、何も理解していないと気付きました」。

国家試験を合格して、ナースとして働いていたのに?! 先生、どういうことでしょう?

「ある講義の中で、人の始期(人はいつから人になるのか)についての学説を学ぶ機会がありました。刑法では、胎児が母体から頭だけでも出た瞬間から人とみなし、民法では全部が母体から出たときに人とみなすという、異なる解釈があるんです。『では、看護学ではどう考えるのですか? あなたは、ナースとして働いていたのですよね?』と先生に問いかけられました。咄嗟に『(受精卵が)着床した時ではないかと思います・・・多分』と、自信のない返事をしながら考えました。『人を相手にナースという仕事をしてきたけれど、看護学が人の始期をどのように定義しているかさえ知らない。看護学生時代に、それをじっくりと考えられるような教育も受けてこなかった。自分の受けてきた看護の教育は、職業訓練だったのだ』と」。

今井先生は、「看護が嫌いでね~(笑)」と繰り返し言っていましたが、言葉の端々からは、看護職を志す後輩達への熱い思いが垣間見えました。

 

「誰かの受け売りを聴く講義なんて、眠いだけでしょ?」

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日常で、「当たり前」と通り過ぎてしまうようなところに、学問を始めるきかっけがたくさんあると先生は続けます。例えば、「どうしてナースは笑顔でいることを求められるの?」、「どうして注射の打ち方はこのようにすると決まっているの?」など。

「教科書には難しいことが書いてあります。それらは、学生達の頭にはなかなか入っていかない。しぶしぶ蓄えた知識をもって、看護学の真の魅力を理解せずにナースになった人達は、いずれ現場で行き詰まり、悩むことになります。つまり、看護という学問が、現場で活かされていない。それが大きな問題だと思います。」

取材に行った日、教科書を1ページも開かなかった講義「医療倫理Ⅱ」は、ディベートの繰り返しでした。学生達が意見を言い合っていた事例の内容は、次のとおりです。

−−−何となく苦しそうな素振りを見せる患者さん。それに気づいているのは、常に患者さんの側にいた看護実習生だけで、現場のプロ達はそれぞれに忙しそう。看護実習生は勇気を出して、「患者さんが苦しそうだから、不安そうだから、家族を呼んであげて欲しい」と現場のナースに伝えたものの、「今はそんなことより大切な観察点がある」と、それ以外の学習の不備を責められてしまいます。そうしているうちに患者さんの容体が悪化してしまいました。さあ、何が問題だったのか、どうすれば良かったのか、それぞれの立場で討論してみましょう−−−

答えの出難い問い、しかも現場で起こり得るリアリティのある問題に直面して、学生達の頭の中はとても忙しそうな様子でした。

「講義中に学生さんを眠らせることはありません。学生が居眠りをするのは、その教員の講義が下手だから。学生が講義を聴きたくなるよう工夫することは、看護学では簡単です。知識の受け売りなんて、聴いていても眠いだけでしょ? そんな講義なんてしませんよ」。

 

「肩書きなんて無くたっていいのよ」。

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今井先生は、「看護師が現場でより良い仕事ができるように研究をしたい。それを夢中になって追いかけているうちに、教授昇進の機会を得た」と、経歴に関して振り返ります。
だから、より良い大学や一流企業に入ること自体を目的にした人生なんてつまらない、と感じるのだとか…。持論を語ってもらいました。

「どこに所属していても、自己がしっかりしていたらよいだけのことでしょう? でも、一度、地位や肩書きを得てしまうと、それがないと自分ではないみたいに感じるのでしょうね。本来、肩書きなんか重要ではないと思う。大切なのは、『どこに属しているか』ではなくて、『何をやるか』でしょう? 誰かの言葉を鵜呑みにして、組織や肩書きにへばり付いて生きるんじゃなくて、もっと自由に、自分を信じて考えればいいし、自己の可能性を追えばいいんですよ」。

先生は、6歳になる子どもを育てるママ教授。なんと、42歳で初産。准教授時代に妊娠、出産を体験したのだとか。
「病気をしていたため、結婚して10年子どもがいなかったけど、42歳で妊娠して、がんばって産みましたよ」。
と、振り返ります。その子にはどう生きて欲しいですか? と訊ねてみたら、その答えも印象的でした。

「子どものことは可愛いし、愛おしいです。ただ、我が子も、社会から預かったひとり。社会にとって大切な存在です。だから、母親としてのエゴは持ちたくない。このように生きてくれたらいいなという具体的な願いは、今のところないですね。どんな風に生きていくのかな?と楽しみにはしていますが。やはり、可能性に挑戦してくれると嬉しいですね」。

2015/11現在

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